お久しぶりです、ゴローです!
仕事と研究と研究でなかなか時間が取れず更新が滞っていました…
前回の更新振り返ったら12月だし汗
ブログタイトルも変えました!前より覚えやすくなったでしょうか?
研究紹介
今回ご紹介する研究はこちら!
「口腔がん患者における口腔健康状態の改善への緑茶うがいの効果:単盲検ランダム化比較試験」です。
口腔がんの患者に緑茶でうがいをさせたら口の状態は良くなるのか、を調査した研究です。
背景
口腔がん治療の弊害
口腔がんの治療には放射線治療や化学療法などがありますが、これらはがんに効果的ではありますが身体にも毒であり、口腔内の炎症や口腔潰瘍いわゆる口内炎などを発生させてしまいます。
これは非常に強い痛みや口腔内の乾燥、痛みで食べられないことによる体重減少だけでなく、QOLの低下までも引き起こすと言われています。
それらは患者さんの口腔内の衛生を維持する意欲を低下させて口腔健康状態を悪化させてしまい、治療の中断にもつながって患者の予後に悪影響を及ぼす可能性があるのです。
わたしたちも口内炎があると食事が億劫になることや常時の痛みでイラつくことありますよね。
うがい
口腔洗浄剤は口腔健康状態を改善するのに効果的な方法と言われていますが、従来のクロルヘキシジンを用いたうがいは痛みや刺激、灼熱感、歯を染色してしまうなどの副作用もあるためあまり勧められません。
そこで緑茶の登場です。緑茶はその中に含まれるカテキンが歯周病菌の増殖を抑制することがわかっていて、抗酸化作用や抗炎症作用、抗がん作用、抗菌作用などのさまざまな効果があります。
今までの研究でも、緑茶で口をすすぐと歯垢や口腔内の菌の増殖を抑える効果があることや、口腔外科術後の痛みの緩和に有効であることが示されています。
研究の目的
そこでこの研究は、口腔外科手術、化学療法、放射線療法を受けている口腔がん患者の口腔健康状態の改善に対する緑茶うがいの効果を検討することを目的としました。
- P(参加):口腔がん患者
- I(介入):緑茶うがい
- C(比較):水道水うがい
- O(結果):口腔健康状態
方法
研究デザイン
台湾の嘉義市でおこなわれた前向き単盲検ランダム化比較試験でした。
ランダム化比較試験とは、被験者を無作為に介入群と対照群に分けることで、被験者の特性(性別や年齢、併存疾患など)の偏りを無くして介入の効果を評価する方法です。
研究ではこのランダム化がおこなわれているかどうかでエビデンスレベルがグッと変わってきます。
盲検というのは研究に関わる一つの役割を担う人物が「誰に介入したのか」というのをわからなくしている、という方法です。
新薬の効果を比較するとき新薬と偽物の薬で効果を比較しますが、患者はどっちを飲んでるかわからないですよね?それも盲検です。
この研究の場合、緑茶と水道水で比較しているので被験者は明らかにわかってしまいますし、それを提供する人もわかってしまいます。
では誰を盲検にしたかというと、「統計担当者」だったようです。データを解析する人にもわからないようにすることも重要で、偏った判断を避けて結果の信頼性を高め、データの改ざんや捏造をするリスクを減らします。
参加者と設定
がん専門医療サービスを提供している地域の主要教育病院
組入基準:20歳以上、医師に口腔がんと診断された者、前1ヶ月以内に口腔外科治療を受けたもの、化学療法、放射線療法、標的療法の有無にかかわらず追跡調査を完了した者。
除外基準:精神疾患、急性または重症疾患、完全な無歯顎症、口を1cm以上開けられないこと。
評価項目
何で評価したのかというと、メインは口腔内の健康状態でした。
Oral Assessment Guide:OAG(口腔評価ガイド)という1988年にEilersさんたちが作ったものです。
OAGは音声、嚥下、口唇、舌、唾液、粘膜、歯肉、歯や入れ歯の8つのカテゴリーで作られていて、各カテゴリーを1(正常)~3(重度)のスコアで評価します。
これらすべてを合計して8~24点で点数が小さい方が口腔の衛生状態が良いことを示します。
看護師がOAGを治療後から外来フォロー6ヶ月までの1ヶ月毎で計7回評価しました。論文中ではT0~T6と表記されています。T0は初回のベースラインです。
介入内容
介入群と対象群全ての患者が1日2回以上、ヘッドの小さい柔らかい歯ブラシで5分間歯を磨くブラッシング法の指導を受けた。
歯磨きの後、介入群は100mlの緑茶溶液で60秒間口をすすぎ、対照群は100mlの水道水で60秒間口をすすいだ。
緑茶溶液というのは、5gの緑茶粉末を100mlの水に溶かした5%の溶液。
結果

図1 患者選定のフローチャート
図1は患者選定のフローチャートですが、3ヶ月以上のデータがあれば有効なデータと見なし、最終的に緑茶31人vs水道水30人になりました。

表1 介入群と対照群の患者の特性
表1は患者の特性を示しています。介入群と対照群で年齢や性別、がんの部位、ステージ、種別、治療内容、化学療法の薬物などのデータにはどれも有意差がなかったようです。ランダム化したおかげですね。

表2 両群の口腔健康状態スコアの総得点と下位尺度スコア T0-T6時点の点数とT0とT1~T6の点数の差
表2はT0~T7までの両群の口腔健康状態の総得点と各カテゴリーの得点で、T0(ベースライン)とそれ以降の得点との差を比較しています。
総得点に関してはT0~T4までは両群で有意差はなく、T5とT6で介入群は対照群よりもスコアが有意に低かったようです。
またベースラインとのそれ以降の得点の差についてはT4から有意差を示し、T6では対照群が6.6点下がったのに対して介入群では9.3点も減少していました。
各カテゴリーを見てみると、主にT5から口唇、舌、唾液、粘膜、歯肉、歯または入れ歯のスコアが介入群の方が低かったみたいです。
「でもこれってただ単に時間が解決してくれただけじゃない?」っていう疑問も思い浮かびますよね。そこで表3の登場です。

表3 混合効果モデルを用いてグループ別と時間別に口腔健康状態を推定
表3は混合効果モデルという方法でグループ別と時間別に口腔健康状態を推定したものです。
難しい言葉でなんのこっちゃ?って感じですが、簡単に言うと介入か対照かによって時間に対するスコアの変化が異なっているかを見ることができます。詳しい説明はここでは割愛しますが、統計WEBさんの「交互作用とは」が非常にわかりやすいのでそちらをご覧ください。
この表で注目するのはTime*groupのところで、T4で介入群の方が対照群に比べて1.71点、T5で2.97点、T6で2.93点有意に低かったです。
つまり時間+緑茶の介入は時間+水道水よりもそのくらいスコアを下げた、というわけです。
そして緑茶の介入での副作用や有害な事象はなかったと報告しています。
結論
口腔がん患者において、1日2回以上、5%の緑茶溶液でうがいすることで4ヶ月後から6ヶ月後までの口腔健康状態が有意に改善することが示唆されました。
私見
一つ気になったこととしては、Oral Assessment Guide、1988年ってずいぶん古くないか…?
専門じゃないからあんまりわからないけど、より新しいものが出てないのかが気になるところです。
それでも、緑茶っていうどこにでもある一般的なものを利用した良い研究だと思いました。
安全で自然のものを使っていて安くてお手軽に購入できるっていうのは患者さんにとってもいい印象を抱きますよね。
こういった非薬理学的な方法を利用するのはとても看護的だなと思います。
外来で勤務するようになったらこういう研究に手を出してみてもいいかもしれませんね。
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